コロナ備忘録

20.5.25
『産経新聞』などを中心に、各国比較の行われつつある。この文脈では、5月3日のNYTの記事が秀逸だ。なぜある場所で感染が拡がり、死亡率が高まるのか、合理的な説明がつかないという。現在のところ、感染拡大が生じ、死亡率が上がると、失敗の理由はある程度推測がつくのだが、逆に成功している説明はできていない。単純な比較は、ステレオタイプに結びつきやすい。例えば、アジアタイムス記事「東アジア人は個人主義的な欧米人よりもルールに敏感であるという傾向がある。」(『産経新聞』5月25日付7頁)単純に、「現在の東アジアの人々には、欧米よりも順法主義が根付いている」くらいの表現にすればよいのに、なぜか個人主義ということばを使いたがる。

詳細さが重要なのだ。そのなかで気になるのが、武漢とシンガポールだ。武漢に関しては、全市民に対して、PCR検査をするという方針らしい。300万人を検査したとのこと。単純な疑問として、なぜ日本ではこのような方策が議論の俎上に上らないのだろうか。ひとつには、日本における専門知のあり方にもよるのだと思う。医者や感染学者の発言権が大きすぎる。2月にはオリンピックの中止を避けたかった。これは政治家主導。3月にはクラスターつぶしで対応できると考えた。これは、厚生労働省クラスタ―対策班の見解。また、病床確保ということもあっただろう。4月以降はよく分からない。この検証は、されるべきだろう。また、野党もこの点では、主張が明確ではない。韓国では、長期滞在者の再入国時に検査で陰性が出ていることが入国48時間前までになされなければならない、という方針が示されたという。シンガポールについては、2月の段階で、外国人労働者に対する危険は把握されていたという。しかし対応してこなかった(『東京新聞』5月25日付6頁)。そういえば、日本でも入管が一時期三密の問題とされていたが、現在までのところ、クラスタ―化は避けられたようだ。

20.5.23
東京も、そろそろ緊急事態が解除されそうだ。そのガイドラインが発表されている。そのようななかで、日本ではテストをどのように拡大するのか、という議論がない。テストをせずに、感染者が出ないということが国外に説得力を持つのだろうか。今後、国境が徐々に開いていくなかで、日本のテストの少なさは問題になるのではないだろうか。例えば、日本からの渡航者のみ、入国禁止や二週間の待機、または日本への渡航禁止など。他方、アメリカでは私企業も再開するためにPCRテストを行うということの是非が論じられている。フィリピンでは、OFWの問題がある。補助金もあるようだが、海外から戻って来れていない人も多い様子。具体的な数は調べられていない。

現時点でのコロナウィルスと緊急事態・都市封鎖解除を見ると、全世界的に三つのトレンドが見られる。①東アジア、ニュージーランドのように、とにかく新規感染を抑制した上で、徐々に解除というパターン。②感染が横ばいまたは拡大しつつあるなかで、解除していくというアメリカやブラジル。この場合、予防は私企業や個々人に課せられるということになるのだろうか。③イエメンのように、感染爆発が起きているのだが、緊急事態・都市封鎖できる統治能力が欠けている場合。また、ロシアのようにそれなりに緊急事態等を行うのだが、感染爆発を抑えられていないケースもここに含まれるのだろう。そして、例外として、集団免疫を目指すゆえに、緊急事態・ロックアウトをとにかくやらないというスウェーデンのケースがある。

20.5.21
いくつかの発見がある様子。韓国政府によると、一度発症した人の再発症はないということだ。再発症したと思われたのは、ウィルスの死骸を感染と誤解したとのこと。このニュースは19日付『東京新聞』の「再陽性 別の人に感染せず」という韓国当局の記事をうけたものだろうか。いずれにしても、多くのPCR検査をしているのでデータに基づいた結論には説得力がある。また、アメリカでは暑くなっても感染は弱まりという研究結果が出ている。

NHK BSの特集番組によると、成功例は、韓国、ドイツ、ニュージーランドとのこと。ノーベル賞を取った本庶佑は、日本政府は科学者の意見を聞かないという評価。PCR検査の少なさがその一番の根拠のようだ。しかし、客観的に見て、死亡者数は少ない。つまり、日本における感染の被害は相対的に見て軽い。それはBCG予防接種による全体的な免疫力が高いからではないか、という仮説を立てていた。

コロナをめぐって、怒りが色々な形で表れている。日本のPCR検査をしなかったことの責任ニューヨークでの感染爆発とデブラシオ市長の責任もっと事前に緊急事態宣言が行われればより36,000の人が救われただろうというコロンビア大学の研究トランプ大統領はWHOの事務局長テドロスの責任を追及している。以下彼の手紙の仮訳。

テドロス事務局長は
・2019年12月初旬、またはそれ以前のWHOへの通報を無視した。また、通報に基づき、中国の調査を行うこともなかった。
・WHOの北京事務所は、12月30日に武漢で「大規模な公衆衛生」上の懸念を知っていた。翌日には台湾からの人から人への感染についての通報があった。それにも関わらず、対応しなかった。
・2020年1月11日に上海公衆衛生病院のZhang Yongzhenがコロナウィルスのゲノム配列を明らかにしたが、中国政府が彼の実験室を閉鎖した。しかし、無視した。
・2020年1月14日に、人から人への感染が起きないという中国政府の発表を是認した。
・2020年1月21日に、習近平の圧力の下、緊急事態を宣言しなかった。
・2020年1月28日に、習近平と会ったのちに、中国の「透明性」を賞賛した。
・2020年1月30日に、ようやく「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を発したが、国際的な専門家による調査を要求しなかった。なお2月16日に調査団が中国に行くことができたが、中国政府は最終日まで武漢の調査を拒んだ。
・中国国内の移動禁止は称賛したのに、アメリカ政府による中国からの入国禁止措置は批判した。
・2020年3月3日に、「インフルエンザほどの感染力はない」「二日以内には発症する」と無発症感染の危険性を軽視した。
・2020年3月11日に、パンデミックを宣言したが、その時点で4000人が死に、10万人が感染していた。
・2020年4月11日に、アフリカ諸国の在中大使館がアフリカ人に対する差別について抗議したが、これには沈黙したのに、台湾に対しては自らが差別を受けたと訴えた。
・中国の「透明性」を賞賛しつづけている。
・自らの緊急事態委員会の提言にも関わらず、中国に独立した調査を受け入れさせるように説得すらしていない。

なお、2003年のSARS危機の際に、WHO事務局長のハーレム・ブルントランは、55年の歴史のなかで初めて、[中国に?]渡航制限を出した。また、内部告発を抑え込もうとする中国を批判することを恐れなかった。

20.5.17
全体的に楽観的に空気が拡がっている。職場もそろそろテレワークのみではなくなりそう。職場の基準のStage RedがOrange かGreenに変わったときに、どう対応しなければならないかを、考えなければならない。モデルナというアメリカの製薬会社が、ワクチンの臨床実験に成功した。血液中の抗体値が上がったという。「アルジャジーラ」では、このニュースへのコメントとして、今年末または来年冒頭には、ワクチンができるのではないか、と言っていた。また韓国政府は、再陽性した人からは、感染が拡がらないということを言っている。各国でロックダウンや緊急事態宣言が解かれつつある。私のお気に入りのNYTのチャートをみると、ヨーロッパやアメリカや東アジアではもはや感染爆発という状態にはない。他方では、ブラジルやメキシコといった感染者数が数万人を超えた国や、モンゴルやイエメン、中央アフリカ共和国などのまだ数百人の国でどんどん広がっているのが分かる。

また、WHO総会において、コロナウイルスの発生源調査を中国が受け入れるという。といっても、ウイルスが収まったらという限定付きだが。米中対立が言われているが、問題はそこではない。ここまで多くの人が死んでいくなかで、その怒りがどこに行くかだ。トランプ大統領の中国批判やWHO批判は、いわば結果で、原因ではないのだろう。習近平もそれを察知しているということだろうか。その一方で、本日付けの『東京新聞』では、中国でコロナウイルスに関わる様々な声を集めたネット・アーカイブスの主宰者が拘束されたという。ギットハブという技術者向けのSNSを使っていたが、メールアドレスから本人のアイデンティティが明らかになってしまったとのこと。また、中国が上述の調査案を主導しているオーストラリアからの大麦の輸入を止めている。怒りが中国共産党に向けられるのは仕方がないと思うが、中国人への差別につながることを恐れる。昨日の『産経新聞』では、帝国の医療を研究してきた飯島渉が、ダイアモンド・プリンセスにいた人の声を集め、アーカイブス化することを勧めていた。

20.5.16
経済学者の森永卓郎は絶対にインフレにならないと言っていたが、今度のコロナウイルスは本当にそうなのだろうかと疑問を抱かせる。マスクは品薄だったが、現在では余っている。他方、ティッシュペーパーは1人1点。納豆も1点のみだ。アメリカやフランスの食肉工場がコロナウイルス予防のため、または感染拡大のために閉鎖しているとのこと。また、アフリカではバッタの大量発生で、穀物が大きな打撃を受けていると言う。これもコロナのせいで殺虫剤が品薄になったからだという。生産や流通が多少は被害を受けてもすぐに立ち直るというのが森永の論拠なのだろうか。いずれにしても、食料不足はより実存的な恐怖に結びつく。

今日あたりのニュースでは、プライバシーを守りつつ、Bluetoothを使って、他人との接触を記録するアプリについて盛り上がっている。ただし、アップルとグーグルからコードの開示がないと開発できないという。これを機に、GAFAや政府のデータの独占は許さないという潮流が生まれ出れば良いのだが。つまり、本人が許可しない限り、ネット上の自らに関するデータについて、徹底的に匿名化しなければならないとか、徹底的に削除しなければならない。そうできないなら、法的な責任を負うなど。

韓国のクラブからの感染は、4次感染までいったがあまり広がっていないようす。あそこまで徹底的に防疫対策を行っている国で、第二波で指数関数的に増えてしまうのでは、打つ手がなくなってしまう。ちょっと安心。

20.5.17
各国で緊急事態またはロックダウンの解除がなされている。その際の基準が異なるのは当然と言えば当然だが、そもそも使われている概念も違う。例えば、5月16日付『産経新聞』によると、ヨーロッパだと「実行再生産数」という考え方が提示されている。また、韓国では「管理下での感染比率」という考え方を提示している。大体の指標としては、空き病床、一定人口あたりの新規感染者数、感染者数に対する感染経路不明といったところ。

日本国内でも基準がいくつかある。大阪府、新規感染者10人未満、検査体制のひっ迫状況7%未満、病床のひっ迫率60%未満。首相官邸は、季節性インフルエンザとの比較、感染経路の不特定、医療提供体制のひっ迫が、数値を上げずに論じている(p.9)

また、未来予測が色々なされているが、例えば『若き数学者のアメリカ』の著者藤原正彦の見解だと、米欧vs.中国、グローバリズムが富者に利する制度であり貧困層には死をもたらすという新たな意味付け、サプライ・チェーンの国内化と言う意味でのグローバリズムの終わり、自国一国主義の強まりといったところ。アフリカでの水道水インフラが整備されていないことが言われているが、アメリカでは水道を止められてしまう人が1500万人もでると言う(5月17日付『産経新聞』)。

朝のTBSのサンデーモーニング。IMFによると世界の今年の経済成長が△3.0%(「日本が丸々ないようなもの」)、日本が△5.7%とのこと。寺島実郎の見解。今はとにかく公的資金の注入による救済という流れだが、「まともな政策科学ならば」、その財源をどうするのかという議論がなければならない。日本の財政はそもそも借金がGDPの2倍といういびつな構造。孫ひ孫に借金を負わせないために、日本人がどういう産業で生き延びるのか、を考えなければならない、というもの。彼の素晴らしいところは、この経済理論を一貫して言ってきていることだ。

韓国でのクラブがクラスター化してしまったが、そこに起因する感染者が、160人になった。

20.5.15
現在起きているコロナウィルスの世界感染を受けて、同時代史として書き残したい。昨日はNYTでアメリカ連邦議会の公聴会があった。疫学の専門家リック・ブライト(Rick Bright)によると1年~1年半でワクチンができるというのは、まったくもって楽観的とのこと。ワクチンを作る際の安全性が重要であり、人体に有害なワクチンにしないようにするにはどうすれば良いのか、という点を強調していた。

4月の終わりごろだったと思うが、The Hammer and the Dance というHPがアップされて、そこの議論が良くまとまっていた。ただ、もはや統計的予測はやや食傷気味で、実際に各社会で何が起きているのかに目を向けなければならない。その際に必要なのは、きちんとしたデータを取ってくることで、先入観は避けるべきだ。データを精査した上で、社会的背景を考えることが重要だろう。この点では先だって『毎日新聞』に載っていたジャレド・ダイアモンドの議論は不十分だった。総じて『毎日新聞』は信頼がおけるが、いかに有名人とは言え、といよりもパブリック・インテレクチュアルになってしまったからだと思うが、調査を十分せずに各国の成否を論じるのは避けなければならない。

とはいえ、データの集積は重要だ。Our World in Dataは参考になる。それにもはや老舗だが、ジョンズ・ホプキンズ大のものも。それに私のお気に入りはNYTだ。こういうところは、英文メディアが強い。その反面、最近では質的なデータの集積もなされつつある。そんなに読んでいないが、京大東南アジア研究所の現地報告がアップされた。また国連の職員のブログも興味深い

今週になって注目されるのは、韓国ソウル市梨泰院のクラブでの感染だ。二次感染の典型だ。今朝のKBSニュースでは、主には京畿道だが、市内感染が広がっているという。確認されたのは150人ほどだ。3万人ほどが検査を受けたが、2000人?ほどは勧告を受けたのに名乗り出てこない、とのこと。検査を受けないことは、違法なのだろうか。警察がクレジットカードの記録を韓国CDCに提供したとも報道されていた。韓国の防疫対策は、ここまで素晴らしかったが、逆に個人のアイデンティティまで犠牲にして、防疫してきたことに、人々、特にLGBTの人たちの不信感は大きいということらしい。

現在のところ、①PCR検査、②抗体検査、③抗原検査の三種類がメディアレベルでは論じている。①は日本に十分な能力がなかったうえに、政治リーダーシップの欠如やクラスター追跡重視の方針から3月初めごろから5月初めまで足りないことが言われ続けた。②はコロナウィルスに係った人が作り出す抗体を検査するもの。抗体ができたからもはやコロナは怖くないという言説はあまり広がっていない。抗体ができない場合や、特定の抗体が効かない場合もあるのだろう。むしろ、この度のウィルスのように無症状や軽症状の人が多いので、では実際どれくらいの人がかかっていたのか、いるのか、を知る指標として使われている。NYの場合だと、最大サンプルの21%だった。それに全人口と掛けると250万ということらしい。しかし、抗体検査は統計的にも十分に正確ではないとも。東京大の調査が今日『毎日新聞』に載っていた。0.5%で、これに東京の人口を掛けると8万人くらいという。③は①よりもよほど簡単に調査できるのだが、③で陰性が出ても①で陽性になることがあるということだ。

昼ご飯を食べながら、エンタ・ニュースを見ていたら、中国武漢で行われた昨年10月の軍人体育大会とコロナウィルスの関係が論じられていた。神田外大の興梠一郎がコメンテーター。米中の論争にヨーロッパ人が参加しつつあるというもの。全体の論調としては、中国が体育大会の前に行った、対コロナ訓練でコロナウィルスの存在を前提としており怪しいというもの。まあ、推論に推論を重ねた感が現時点では拭えない。