【授業計画】
基本的には1回の授業に1人または2人の研究者に集中し論じます。以下は各著者の基本文献です。読んでもらう部分は以下の一部です。なお、当該著者の英語著書・論文については授業内で補足します。
10月4日(月)1回目:ガイダンス
(ポストコロニアリズムの古典)
10月11日(月)2回目:フランツ・ファノン
・海老坂武、加藤晴久訳『黒い皮膚・白い仮面』(フランツ・ファノン著作集1)みすず書房, 1970
・鈴木道彦、浦野衣子訳『地に呪われたる者』(フランツ・ファノン著作集3)みすず書房, 1969
・佐々木武、北山晴一、中野日出夫訳『アフリカ革命に向けて』(フランツ・ファノン著作集4)みすず書房, 1969
10月18日(月)3回目:ラナジット・グハとガヤトリ・スピヴァック
・R.グハ他著、竹中千春訳『サバルタンの歴史――インド史の脱構築』岩波書店, 1998
・スピヴァク, ガヤトリ C.著, 上村忠男訳『サバルタンは語ることができるか』みすず書房, 1998.
10月25日(月)4回目:エドワード・サイード
・板垣雄三、杉田英明監修『オリエンタリズム 上下』平凡社, 1986
・大橋洋一訳『文化と帝国主義 上下』みすず書房, 1998
・大橋洋一訳『知識人とは何か』平凡社, 1995
(グローバル・サウスの国家と社会)
11月1日(月)5回目:ベネディクト・アンダーソン
・白石さや、白石隆訳『想像の共同体 : ナショナリズムの起源と流行 増補版』NTT出版, 1997.(その後異なる出版社から出ている)
・糟谷啓介, イ・ヨンスク訳『比較の亡霊 : ナショナリズム・東南アジア・世界』作品社 2005.
・山本信人訳『三つの旗のもとに : アナーキズムと反植民地主義的想像力』NTT出版, 2012.
11月8日(月)6回目:パルタ・チャタジー
・R.グハ他著、竹中千春訳『サバルタンの歴史――インド史の脱構築』岩波書店, 1998
・田辺明生 , 新部亨子訳『統治される人びとのデモクラシー : サバルタンによる民衆政治についての省察』世界思想社, 2015.
11月15日(月)7回目:スティーブン・クラズナー
・河野勝訳,『国際レジーム』勁草書房, 2020.
(グローバリゼーションとグローバル・ヒストリー)
11月25日(木、補講日)8回目:「グローバリゼーション」の歴史、世界システム論とのつながりから
・川北稔訳『近代世界システム』名古屋大学出版会 2013
・川北稔『ウォーラーステイン』講談社, 2001.
・川北稔『世界システム論講義 : ヨーロッパと近代世界』筑摩書房, 2016.
・アブー=ルゴド, ジャネット L.著, 高山博他訳 『ヨーロッパ覇権以前―もうひとつの世界システム』上下. 岩波書店, 2014.
11月29日(月)9回目:大前研一とデイヴィッド・ヘルド
・大前研一編著, 吉良直人訳『大前研一 戦略論』ダイヤモンド社, 2007
・ヘルド, デヴィッド著、中谷義和訳『コスモポリタニズム : 民主政の再構築』法律文化社, 2011.
12月6日(月)10回目:ウルリッヒ・ベックとダニ・ロドリック
・ベック, ウルリッヒ著, 東廉, 伊藤美登里訳『危険社会 : 新しい近代への道』
・ベック, ウルリッヒ著, 島村賢一訳『ナショナリズムの超克 : グローバル時代の世界政治経済学』
・ロドリック, ダニ著, 柴山桂太, 大川良文訳『グローバリゼーション・パラドクス : 世界経済の未来を決める三つの道』白水社, 2014.
(グローバリズムの政治学)
12月13日(月)11回目:西洋覇権の制度論:ダグラス・ノース、ウィリアム・マクニール、ニーアル・ファーガソン
・ノース, ダグラス著『西欧世界の勃興 : 新しい経済史の試み』ミネルヴァ書房, 1980.
・ノース, ダグラス著『ダグラス・ノース制度原論』東洋経済新報社, 2016.
・マクニール, ウィリアム著, 増田義郎, 佐々木昭夫訳『世界史』中央公論新社, 2001.
・マクニール, ウィリアム著, 北川知子訳『マクニール世界史講義』筑摩書房, 2016.
・ファーガソン, ニーアル著, 仙名紀訳『文明 : 西洋が覇権をとれた6つの真因』勁草書房, 2012.
・ファーガソン, ニーアル著, 櫻井祐子訳『劣化国家』東洋経済新報社, 2013.
12月20日(月)12回目:フランシス・フクヤマとダロン・アセモグル/ジェームズ・ロビンソン
・フクヤマ, フランシス著, 渡部昇一訳『歴史の終わり』三笠書房, 2005.
・フクヤマ, フランシス著, 会田弘継訳『政治の起源: 人類以前からフランス革命まで』講談社, 2013.
・アセモグル,ダロン, ジェイムズ・A・ロビンソン著, 鬼澤忍訳『国家はなぜ衰退するのか : 権力・繁栄・貧困の起源』
・アセモグル, ダロン,ジェイムズ・A ロビンソン著, 櫻井祐子著『自由の命運: 国家、社会、そして狭い回廊』早川書房, 2020.
12月27日(月)13回目:植民地主義と21世紀――アメリカ植民地期フィリピン研究の立場から
【授業の目標、概要】
本授業では、20世紀後半の重要な思潮であるポストコロニアリズムの主要なテキストを読んだ上で、21世紀になって、なぜこの思潮が後退し、その代りに広義の政治学(グローバリズムの政治学)が興隆してきたのかを考えます。私は前者にも後者にも批判的です。前者の場合は、不可知論に陥りがちで、結局は北米やヨーロッパの英語文学研究の枠組みを越えられなかったと考えています。後者の場合、その出自は、西洋中心主義であり、この亡霊が完全に払しょくできたかというと、できていないと思います。ただ、植民地主義は、人種差別とともに、国家建設や開発主義でもあり、単純に西洋中心主義を論拠として全否定はできません。ですので、グローバリズムの政治学の最近の業績をどう評価するのかは、正直なところ、迷っているところです。他方、20世紀から21世紀の時代、つまり近代植民地から国民国家の形成を一つの時代区分で捉えることを試みています。そのためには、グローバル・ヒストリーの立場から、これらの二つの思潮を繋げて再評価してみることが必要ではなかろうか、と。このような観点から、この授業を開講することにしました。なお、日本語業績を主とする研究者は、本講義では扱いません。英語学知の批判をやってみたいと思うからです。
本授業では、フランツ・ファノン、ラナジット・グハ、ガヤトリ・スピヴァック、エドワード・サイードといった人々のポストコロニアリズムの古典を読み、その後に80年代以降に盛んに論じられたベネディクト・アンダーソン、パルタ・チャタジー、スティーブン・クラズナーといったグローバルサウスの国家建設を論じた議論を検討します。その上で、大前研一、デイヴィッド・ヘルド、ダニ・ロドリック、ウルリッヒ・ベックらのグローバリゼーションをめぐる左右の立場を確認します。最後に、ダグラス・ノース、ウィリアム・マクニール、ニーアル・ファーガソン、フランシス・フクヤマ、ダロン・アセモグル/ジェームズ・ロビンソンといった人々の、国家(制度)と政治に関する論説を検討します。この最後のものを「グローバリズムの政治学」と捉えています。第13回目では、この一連の流れを受けて、私の専門であるアメリカ植民地期フィリピンの研究の21世紀的な意義を考えてみたいと思います。
歴史は多様であり、様々な見方があります。最近話題のものは、人種やエスニシティに焦点を置くものです。これらの論点は極めて重要ですが、本授業では、国家という古典的なテーマを中心においています。「歴史と文化」というタイトルについての弁明としては、冷戦後において、ナショナルなものからグローバルなものになるに関心が移るにつれて、「文化」を研究する意義を問い直すものになります。
【授業のキーワード】
ポスト冷戦の歴史、ポストコロニアリズム、政治学、国家、グローバルサウス
【授業の方法】
短めの日本語文献2本か、長めの日本語文献1本を読んできてもらいます。文献はITC-LMSを使って配布します。他方、日本語にあまり訳されていないのに、重要な研究者・思想家もおりますので、その人がどういう学術背景から議論を展開しようとしているのかは、授業内で説明します。
【参考文献】
東京大学教養学部歴史学部会編『歴史学の思考法』岩波書店, 2020年、特に第6章と第10章
ビル・アッシュクロフト他著、木村公一編訳『ポストコロニアル事典』南雲堂, 2008.
【履修上の注意】
特になし。ただ、課題文献は読んできてほしいのと、進学選択で、歴史学、政治学、グローバル・サウスの研究を選ぼうかと迷っている学生に資する授業にしたいと思っています。なお、他の授業では東南アジア史を講じていますが、この授業ではやや大きな議論を扱い、東南アジア史を論じことはほとんどありません。逆に、ポストコロニアリズムや「グローバリズムの政治学」が強い関心を示してきたのは、南アジアやアフリカです。