1.アメリカ植民地期フィリピン
主には植民地教育について考えてきました。植民地支配とは、人種・エスニシティによる差別が貫徹し、立法権よりも行政的な権力が優位な統治体制です。また、社会改革や発展が主要なイデオロギーです。しかし、統治権力が社会の隅々まで管理できるような状況にはなっていません。このような時代に、フィリピン社会がどのような歩みをたどってきたのかを描いたのが『「恩恵の論理」と植民地』(法政大学出版局、2014)です。最近では、植民地主義とは何かと言う、帝国アメリカ、植民地フィリピンを越えた世界史的な問いを考える機会を与えられました。
2.アジア太平洋戦争期のビザヤ地方
2014年ごろから、1990年代に関わっていた「戦後補償」運動の延長として、アジア・太平洋戦争下のフィリピン戦、とりわけ戦時性暴力に関心を持つようになりました。「慰安婦」を含めた戦時性暴力についての記述は、渡航記録であるとか、日誌・回顧録が多いのは事実ですが、戦後直後にマニラで行われたBC級戦犯裁判の一部にも含まれています。公判記録やその周辺の資料は膨大で、現在のところは、フィリピン中部のビザヤ地方の事件を中心に調べています。基本的には、裁判資料、回顧録、フィリピンの自治体の歴史などから実態がどうであったのかを考察しています。最近では、この問題を訴えてきた人々の歴史として、フィリピン人「慰安婦」運動の足跡について聞き取り調査などを行っています。
3.アメリカと東南・東アジア
過去3年程の間に、この分野にも手を伸ばしてきました。国際関係論というよりも、文化史です。そもそも、植民地フィリピンを含めて、アメリカと東南・東アジアの関係について関心はあったのですが、恐る恐る、色々と調べているというのが実情です。米兵の間で読まれていたペーパーバックの小説や、アメリカ史の文脈ではほぼ忘れられている、アメリカ人女性の東アジア体験などについての刊行・未刊行の一次資料を読んでいます。